思わなけりやなりませんね。これはただ私の思いつきですが、あなたの部屋に誰か外の人がいたことはありませんか。またはあなたが外に出ているうちに、誰かがお部屋にいたというような事は。たとえば女中さんでも……」
さだ子の顔には今度ははつきりと不思議な表情が浮んだが一瞬にしてすぐ消えた。
「……いいえ……」
彼女は小さな声で答えた。
「それから?」
「夜十一時頃私はベッドに入りましたが、その前に母の部屋にまいりました。母は父がまだ起きているので、寝室にはおらず居間に一人横になつておりましたので、薬を封じた袋のまま渡し、ねる時におのみなさいと云つて先に寝室にはいつたのでございましたが、昨夜はいつこう眠くなかつたので、もつと起きているつもりでございましたけれど、これよりおそくなりますと父がやかましいので、いちおう寝室に入りました。でも眠くないので、トマス・ハーデイの小説をよんでおりましたが、いつのまにかうとうととしたとみえ、そのままベッドの上に眠つてしまいました」
「ではお母さんの寝室にはいられた時は知らぬのですね」
「はい、全く存じませんでした。それからどの位たつたか判りませんが、ふと目をさま
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