いいえ――ですから女中は私がのむと思つたかも知れませぬ。母と私との話は二人きりで致しましたから、はつきり誰も知つている筈はないのでございます。姉は昨日夕方になつて帰つてまいりましたから、これもよく存じますまいけれど、母が頭痛がすると申しておりましたから、ことによつたら私のところに来た薬をのむと思つたかも知れません。でも、私は薬の話は誰にも致しませんでした。それから夕食となりましたが、私は、いつも自分がねるすぐ前にのんで発汗するのがいいので、母にもねる時のませるつもりでおりました。母も、もとより自分が進んで求めたものでもないので、忘れたのか私には催促もせず、自分で何かいつもの煎じ薬を作つておりました。それで私は夕食後自分の部屋へ戻り、帯の間の薬を自分の机の引出しに入れておきました」
「それから、ずつとねるまで部屋におられましたか?」
8
極く僅かだつたが、さだ子の顔に一種の困惑の表情が浮んだ。
「そりや、うちの中ですから時々室から出ましたけれど、たいていは部屋におりました」
「そうすると、だいたいあなたはずつと部屋にいたとすると、その薬は無論机の引出しにそのままあつたと
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