るなんてそんな事がある道理がありません。私は決してそんな疑いをもつてきいたわけではないのです」
「でも……」
「でもも何もありませんよ。そんなこと心配しないでいいんですよ。では薬局にはあなたが電話をおかけでしたか」
「いえ、女中に申しまして電話をかけさせました」
彼女の声はやつと落ち着いて来た。
「いつも私がもらつている頓服薬を、すぐに使を出すから作つてくれつてそう申してやりましたの」
「では、薬局ではあなたがおたのみになると考えたでしようね無論」
「まあそうと思います。母がのむのだとは云つてやりませんでしたから。それに木沢先生が御処方なさつた私の薬と申してやりましたから」
「使いは?」
「佐田やす子と申す、うちの女中が夕方とりにまいりまして、夕食ちよつと前に帰つてまいりました。いつもと同じ袋にはいつておりまして封がしてございました。丁度私が台所にいたので、やすや[#「やすや」に傍点]は私にその袋を渡しました。それで私はそれを一時自分の帯の間にはさんでお台所で手伝つておりました」
「その薬があなたの名であるが実はお母様がおのみになるのだという事を、あなたはその女中に話しましたか」
「
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