つけたのです」
「では、さだ子さんの為の薬を奥さんに上げた、というわけですね」
「そうです。私共素人はよくそういう事をやりますのですが……」
 駿三は何か小言でも云われると思つたらしくおずおずしながら検事の顔色をうかがつた。
「で、どなたが薬局に命じたのです」
「うちの女中が電話でそう云つたと思います。無論、妻の命を受けてでしよう」
「そうすると、薬局では、さだ子さんの薬だと思つて調製したのでしようね」
 駿三には、何故検事がここをつつこんで来るのか、ちよつと判らなかつたらしく、
「はあ、まあそうだろうと思います」
 と軽く答えた。
「もう一つききますが、薬はむこうの者がもつて来ましたか、それともお宅の誰かが……」
「電話であらかじめ注文しておいて、うちの女中の佐田やす子というものが取りにまいりました。只今ここにお茶をもつて参つた、あれです」
「では、あなたは一応お引き取り願いましよう。で、ひろ子さんか、さだ子さんをよんで頂きたいですね」
 駿三は一礼して部屋を出て行つた。[#「行つた。」は底本では「行つた、」]
 検事は、かたわらの書記をちよつとかえりみたが、また一本の朝日を取り出し
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