て火をつけ、天井をじつとながめていた。
 藤枝は何も云わずに、あいかわらず、エーアシップをふかしつづけている。
 ノックがきこえて、まもなくそこへ、次女のさだ子が、不安そうな顔つきであらわれた。

      6

 戸口にあらわれたさだ子は、姉に劣らず美しかつた。ひろ子の顔つきを理智的な美とすれば、さだ子の顔つきは情的な美しさをもつていると云える。きれいというよりは、むしろ愛らしい顔つきで、さつき見た時、ひろ子と初江とが、共通の表情をもつているのに反し、さだ子は、父親の顔にどこか似ているが、なんとなく淋しげな色がどこかに見える。これは平生でもそうなのだろうか、あるいはこの悲劇の直後だからだろうか。
「あなたは……さだ子さんですか……二番目のお嬢さんですね。今お父様にいろいろと昨夜の事情をうかがつた所です。……さ、そこにどうかおかけ下さい。……そこで、今お父様にうかがつた所では、二、三日前からお母様が風邪をひかれた。昨日は特に頭痛が烈しかつたので西郷薬局にそう云つて薬をお求めになつたそうですね。それをねる時に呑まれてから大変苦しまれて、あなたがお父様をお起しになつたという事ですが、そう
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