ものがもみくちやになつており、すぐわきにコップがおいてあつて、そこに半分程呑んだ水がありました。それで、私はすぐ、こりや何か毒でものんだのではないかと感じたのでした。
 いや、決して自殺とは思えません。第一妻が死ぬ理由はないのです。……それでとりあえず、かかりつけの医者の木沢さんに来てもらつたのです。時間はおぼえていませんが多分十二時半か一時頃ではなかつたでしようか。木沢さんはまもなく来られました。いろいろ介抱して応急の手当をして下さいましたが、ごらんの通り、とうとう駄目になつてしまつたのです」
 駿三はこう云い終つて一息ついた。
「だいたい判りました。そこでたずねますが、さつきあなたの云われた奥さんの風邪薬ですがね。それはあと残つていますか」
「いえ、一包の頓服とみえて、残つていたのは薬局の包装用紙だけで薬はありません」
「その頓服と云うのはなんです?……処方はいつ誰がしたのですか」
「さあ、薬は何か知りませぬが多分アンチピリンか何かでしよう。処方は特に、妻の為のものではなく、次女のさだ子が数日前発熱して頭痛がひどかつた時に、木沢さんに処方してもらつた頓服薬です。それを西郷薬局に云い
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