は少し判らないが」
「あ、そうでした、寝室の模様を少し申しておかなければならなかつたのでしたね。実は私は、このごろ大変不眠症に悩まされているので――それが為に会社も一切退いてしまつたようなわけですが、兎も角妻でも誰でも側に人がいてはどうしても眠れないのです。それで私は自分一人で寝室に眠るのです。その部屋は、この部屋(書斎)の向う側で、階段を上つて直ぐ右が私の寝室、次が妻の寝室で、これも一人で眠ります。
 それから、さつきごらんの通りの日本間を二つ程隔てた向うに、三人の娘の寝室があります。ひろ子とさだ子は各自一人でねますが、次の初江と駿太郎が一室に一緒に眠ることになつているのです。それで、私が十二時前に自分の室で薬をのみ、鍵をかけてねてしまつたので、妻がいつねたかはほんとうは判りませぬ。私は自分が睡眠剤をのんで、うとうとしはじめると間もなく隣室のドアのあく音がして、つづいて私の部屋と妻の部屋の間の戸が少しあいて妻が、お休みなさいと云うのをきいたのです。だからそれは後から考えると十二時頃だと思うのです」
「成程、それで、あなたはお嬢さんに起されてからどうしました?」
「私は直ぐにはねおきま
前へ 次へ
全566ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング