うと思つているのです」
検事はこう云つて駿三の方を見た。
「いや、そりや無論私の方から申し上げなければならん事でして……で早速お話致しますが、一言で云いますと、一体どうしてあんな事になつたものか、私にも全く判らないので弱つているのです。妻は別に平生恨まれているような事もなく……」
「いや、そう云う事はまた後でききます、昨夜奥さんの亡くなられるまでの話をうかがい度いのですよ」
「そう、妻は、二、三日前から少々風邪をひいておりましたが、別段熱もなく、すこし頭痛がすると云つていたのですが、昨日午後、どうも頭痛がして困るからと申すので、いつも家に出入をしております薬局で、西郷という家に風邪薬を注文しました。それでその頓服を求めまして、夜十二時頃、寝《しん》につく時にのんだらしいのです。私はそれより少し前、睡眠剤を大分のみましてとこに入りました。
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それから、私は直ぐに深い眠りに入つたのでどの位たつたか判りませんが、物音で目をさましますと、寝室の戸を頻りに叩く音がしてさだ子が、おとうさま、大変です、起きて下さい、起きて下さいと叫んでいるのです」
「ちよつと待つて下さい。僕に
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