るんだ。僕と一緒に来給え」
駿三の書斎は今までいた部屋を出て戻つて右側、すなわち夫人の屍体のおいてある部屋の斜め向い側にあつた。
はいると中には今、女中に導かれたばかりらしい検事が書記と何か話しながら朝日をうまそうに吸つている。高橋警部は、室にはいらずそのまま急いで出て行つた。
部屋は洋室で、真中に大きな机が置いてあり、その上に書類がたくさん載せてあつた。そばに、卓上電話がおかれてあつたが、凡て金のかかつている事が目につくばかりで、いかにも実業家の書斎らしい。両側の本棚の中もガラス戸をのぞいて見ると、カーネギーの伝記だとか大倉男の言説だとかいうものばかり、そうでなければ、予約で売りつけられたらしい二、三十円の馬鹿値のついている出版物ばかりでうずめられ、それも、多分読んだ事はないのだろう、いかにもきちんと並べられていた。
さつき廊下で見た美術趣味などは全然ここには感じられない。
やがて、女中がお茶をもつて来て去ると、駿三が重々しい顔をしてはいつて来た。
「一通り、今あちらの方は取り調べました。それで、このお宅で起つた事ですから、まず御主人たるあなたに、昨夜の有様を一応おききしよ
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