した。
 それから警部と検事と藤枝は、かたわらにいた二人の医者らしい人と屍体の手にさわつたり、顔を見たり、いろいろの事をしていたが、私にはいつこう判らないので、なんとなくそこにいるのも窮窟な気がして、またちよつと礼をして戸の外に出て、廊下の所でシガレットを取り出し火をつけようとしていると、そこへ不意にひろ子が現れた。
「おや、おはいりになりませんの」
「ええ、私にはよく判りませんから……仏様におじぎだけして出て来ました」
 いつのまにかひろ子はもう涙をすつかり拭いたと見えて、晴れ晴れとした顔つきになつていた。
「では、こちらへおいでになりません? 父も妹もおりますのよ。御紹介致しますわ。あなたや藤枝さんの事も、もうこんな事がおこつてはかくしてもおられないので、父にけさ話してしまいましたの、そうしたら父は大変喜んで御目にかかりたがつておりますわ。父は父であわてて今朝、なんでもやはり知り合いの探偵の方に来て頂くように申しておりましたのよ」
 彼女はこう云つて私をうながしながら前に進んだ。
 屍体のおいてある座敷の次の間の戸をあけながらひろ子は、
「お父様、小川さんがお見えになつてよ」
 と
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