の時僕が彼を訴える。しかし、一体どこに彼を犯人だと名指す証拠があるか? そもそも何を証拠に彼を弾劾できるか、なるほどさだ子は林田のアリバイをこわすかも知れない。しかし林田の二十日の夜のアリバイが立たぬとなつても彼が殺人犯人だといえぬことは、伊達の場合と全く同じさ。(あらしの前第一回参照)

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「一にも証拠、二にも証拠だ。林田の犯罪には一つも直接証拠がないんだ。ねえ君、君は刑事がどうやつてすりを捕えるか知つているかい。たしかにあいつが怪しい、ホラ今あの男にあたつた、と思つてそれだけでは捕えてもだめなんだ。刑事はひそかにすりの後を尾行するんだぜ。そうして確かな証拠を握れるまでいつまでもいつまでもあとを追う。云いかえれば被害者が、ほんとに物をとられるまで、待つているんだ。僕が検事をしていた時にも、刑事が余り早くすりを捕えすぎたんで、どうしても証拠があがらず、起訴することが出来なかつた場合がいくらもある。林田はたしかに犯人に相違ない。しかも、将来に於いても誰かを殺すだろう、しかしこれだけでは、あいつを捕えることはできない。いや、あるいはあの辺で捕まれば、彼としては『待つてました
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