仇討に着手しなかつたのかね。まるで探偵小説みたいじやないか。ある一家を呪う犯罪人は、探偵小説の中でも一番まずい時にいつも出て来るじやないか。シャーロック・ホームズだの、フィロ・ヴァンスなんかが登場してからやり出すからいけないんだよ。林田英三だつて君のような名探偵が出て来る前にやつつけりやよかつたのに」
検事が好い質問をした。これは私もこの時、胸にいだいた疑問であつた。
「名探偵はおそれ入るね。シャーロック・ホームズやフィロ・ヴァンスの場合はいざ知らず、我が林田英三君は現れるにはちやんと現れるべき時をえらんでいるよ。決してその点は不用意じやないよ」
「というのは、例の脅迫状の一件かい」
「そうさ。これには林田英三の心理に立ち入つて見る必要があるんだ。彼は、学校を無事に出て名探偵になつて安楽にくらしている。何もすきこのんでこんなさわぎをする必要はなかつたんだ。では何故こんなまねをはじめたか。
3
「直接の動機は今も云つたように里村千代の脅迫状だつたんだ。これを受け取つた駿三が、この世の中でたつた一人の頼りとして林田をえらんだ。これは無論、駿三が、私立探偵として林田の功績と
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