ということを少々無視しすぎていたのだ。この問題が秋川対林田である限り、真理は永久に表面に浮んでは来ないよ。君らは秋川駿三が養子であることを御承知の筈だ。小川君、君はいつか僕のオフィスで秋川駿三が何という家から秋川家に入つたか、ということを興信録で読んだはずだつたね」
 こういわれて私ははじめてそのことを思い出したのである。(美しき依頼人第六回参照)
「秋川駿三は二十三才の時、徳子と結婚し、同時に秋川の姓を名乗つた。その以前、彼は山田駿三と云つていたのだ。(同上参照)事は今から約四十年以前、中国地方のある一寒村に於ける二つの家の悪因縁話からはじまる。ああ、君らは、あの伊達、秋川両家の話を思い出したのだね。そうだ。ちようどそれと同じようなこと、いや全く同じことが今から四十年前、伊達、秋川両家の事件から更に遡ること二十年前に、行われたのだ。所は中国の一寒村、二つの家というのは林田文次すなわち英三の父の一家と、山田信之助すなわち駿三の父の一家との間に、恐ろしい運命がいたずらをしたのだよ。宿命の三角形が形づくられたのだ。山田信之助という男は、健《たけし》、駿三という八才と五才になる男子まであるに
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