よ。いや愛すればこそ、ますます疑うというのが女の気もちなんだ。

      14[#「14」は縦中横]

「もし恋と信頼とが平行するか比例するものならば、世にこれほど幸福なことはない。しかし恋は多くの場合、疑いを生むものだ」
「だつて男を絶対に恋して信じている女があるじやないか」
「それは、恋の範囲に於いてのみ男を信じるのだ。つまり自分以外の女を愛さぬということを信じるのみで、その他の Norm を犯さぬということを信ずるのではない。又実際世の中には、恋する女の為に犯罪を行う青年が多いじやないか。君だつて恋女房のために窃盗をした男をずい分知つてるじやないか。だからそれだけ男をその方面で疑つてもいいわけじやないかね」
「藤枝君から恋愛論をきかされるとは思わなかつたね。まあその恋の気持は判つたとして林田の犯行の方はどうなつたんだい」
 検事が口を出した。
「すなわち、さだ子が一人で二階にいる五、六分の間に敢行されたのさ。彼はヴェロナールがきき目をあらわした時分にそつと風呂場にはいつた。彼はまず外から声をかけたろう。これはヴェロナールのきき目がもし未だ現れておらぬといけないからだ。中から返
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