の表現に就いて一瞥を与えて見る。さきにも云つた通りこの殺人交響楽の第一テーマが『恋する女性の心理を利用する』というものとすれば、第二の主題は『劇薬すりかえ』なんだ。第一の殺人で鮮かにこれが行われたが、林田は第三楽章でまた同じテーマのヴァリエーションを弾じている。予め心得ていてもらいたいのは林田のような男は常にその身辺に毒薬か劇薬をもつていたと考えていいということである。では彼は如何なるチャンスにこれを犠牲者にのますべきか。初江の胃がわるい、ということを知つてまず林田の心の中には犠牲者のあてがついた。勿論相手は秋川駿三以外の者ならば誰でもいい、駿三だけはできるだけ苦しめたいから、最後に殺すとして、他の家族は誰からやつつけてもいいのだが、ひろ子とさだ子を駿三の次には、あとに控えておきたい。というのは、この二人には出来るだけ嫌疑を蒙らしておかなければならぬ。見給え、その結果、彼の考えはまんまと図に当り、ひろ子はさだ子と伊達を疑い(ひろ子の推理の項参照)また警部はひろ子を疑つていた。(警部の論理の項参照)いや、彼らばかりではない、林田の創作は、もしこれが小説ならば、読者は恐らく、一応ひろ子、さ
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