わず、ひたすら彼の親切に頼つていたのさ。思いは同じさだ子もまた……ということになるのだがこれは後の話だ。
「さて、林田の魔術ですつかりやす[#「やす」に傍点]はおびえてしまつて、絶対に誰にも会わなかつたと主張していたことは諸君の御承知の通り。いや高橋さんや僕が手古摺つた通りだ。
「ところが、林田の魔術が段々ときかなくなる時が来たのだ。彼ははじめは女性の心理を捕えて安心していた。それ故にこそ五月一日に第二回の犯罪をやる気でいた。それが急に二十日に行われた。何故だろう。いうまでもなく、五月一日までは待てぬ事情が起つたのだ。どこかに彼の計算のまちがいがあつたというわけなんだ[#「どこかに彼の計算のまちがいがあつたというわけなんだ」に傍点]。(殺人交響楽第七回参照)それはすなわちやす[#「やす」に傍点]の心理の動揺だ。元来、彼女は辰吉をただひたすらに恋してのみいたのでないこと、くどくも云つた通りだ。もし彼女が林田の信じた通り、絶対に辰吉に恋をしていたとすれば、ことは彼の思う通りとなり、五月一日まで犯罪がまたれていたはずなんだ。ところが、彼女は一方に於いて辰吉を嫌つていた。そこへもつて来て、警察
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