ないからやす[#「やす」に傍点]とは初対面だつたろう。そこで彼はまず自分は探偵だとまともに名乗つて脅かしただろうと思う。君は偽刑事が世に横行することを知つてるだろう。丁度やす[#「やす」に傍点]の場合のように人に見られて悪い所を見つかつた女は、こんな場合、相手が刑事とか探偵とか云えばすぐ信用してしまうものなんだよ。ことに林田は偽どころか立派な探偵だからすぐ信じるのは当然さ。そこで彼はいきなり彼女の情緒に訴えたのだ。ねえ、判るかい。『この薬はどうも怪しいが一旦お前に返しておく。ところであの男、すなわちお前の情夫はかねて怪しいとにらまれている者だ。もし万一のことがあればあの男にすぐ嫌疑がかかる。ひいてはお前の身にも悪いことがあるに違いない。だから俺がお前たちの為に、黙つていてやるから俺に会つたことも決して人に云つてはいかん』と充分おどかしておいたのだ。その夜、主人の妻が殺される。薬が毒にかわつていた。とすれば佐田やす[#「やす」に傍点]は林田を疑わずしてまず辰吉を疑うのだ。彼女は、辰吉と二人で話していた間に帯の間の薬をとりかえられたかも知れぬと考えはじめたわけさ。手にもつて帰つたなんて大嘘
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