いる。しかし、口できらつていると云つたのも嘘ではなかつたのだ[#「口できらつていると云つたのも嘘ではなかつたのだ」に傍点]。さすがの林田先生も僅か五分か十分の立話中、彼女の真意を観破し得なかつたのは無理もない。ここに彼の重大の失策がある。彼は『こいつ口であんなことを云つていながら実は惚れてるな』と思つちまつたんだ。実は口で云つたこともほんとだつたんだがね。そこでいよいよ時こそ至れりと感じたのさ。
「林田は、佐田やすがひそかに人目を憚つて情夫に会見し、かつ充分惚れているのを知ると(彼のこの観察が必ずしも正しくなかつたことは今いつた通りだが)よし、この機会を利用してやれ、と思い付いたのだ。彼はここで恋をしている女が如何に利用し易いかを考えたのだ[#「彼はここで恋をしている女が如何に利用し易いかを考えたのだ」に傍点]。彼は、チャンスを逃がさず、やすのもつている薬を、自分のとすりかえたのだ」
「どうやつてかえたのだい」
 きいたのは検事である。
「事は極めて簡単に、しかして公然と行われた筈だ。『お前がそこにもつている薬には怪しい点があるからちよつと見せろ』位なことをいつて受け取り中を改める、そ
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