。
「辰吉の先の情婦岡田かつの取り調べによつて、辰吉が変態性慾者だということがわれわれには判つているはずだつたね。(第三の悲劇第十回参照)やすはつまりそこがいやだつたのだけれども、実は辰吉を好いてはいたんだよ。だからこそ、がまんできなくなるまで一緒に暮していたのだが、逃げる時別に男を作つて出たわけではなかつたんだ。そこで彼女が林田に訊かれて何と答えたかというと、これは無論『もとの夫だが嫌つて逃げて来たのに追いかけられている』位に云つたにちがいない。女というものはこの場合全然惚れていても、惚れている男だとは云いにくいものだ。殊にいやな一面がある以上、彼女はこの方面の感情だけを洩らしたにちがいない。無論変態性慾者などとは云わなかつたのだ。
「ところで林田の立場だ。彼はやす[#「やす」に傍点]と話をしているうちに、時乗ずべしと感じたんだ。あの男のことだ。やす[#「やす」に傍点]が口できらつている、と主張したにもかかわらず、彼女が辰吉に惚れている点を見ぬいてしまつた。そこでこの点が大変デリケートで同時に重要なんだが、いいかね、やす[#「やす」に傍点]は口できらつていると云つたけれども実は惚れて
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