「さて、この二人が今死んでしまつているから正確なことは判らないけれども、後に起つたことから大体こういう会見だつたと推理するのが正しいと思う。林田はいきなり佐田やすをおどかしたに違いない。今の男は一体何者か、とやつたんだね。ところでやす[#「やす」に傍点]はこれに対して何と答えたろう。……ねえ、やすは一体辰吉をすいていたのかね、嫌つていたのかね」
「無論、嫌つていたさ。判り切つてるじやないか」と高橋警部が云う。
「いや、僕は必ずしもそうは思わない。むしろあの男に惚れてたんじやないか、と思うよ」
と私が云つた。
「そこだて、この点が面白いのさ。御両所の説は共に正しく同時に正しくないのだ。かつて小川君にこの所が面白いのだと云つたことがある。やすは辰吉を嫌いながら好いていた[#「嫌いながら好いていた」に傍点]んだよ」
「そんな事があるかしら」
警部と私は異口同音に云つた。
「そうとも。世界中に夫婦は何組あるかしらぬが世界中の妻にきいて見給え、三分の一は夫を全く好いているし三分の一は全く嫌つている。残りの三分の一は好いて同時に嫌つているよ。いや、このパーセンテージはもつと多いかも知れない
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