たしたのは十七日以前までのもので、これは皆駿三から林田の手に渡つている。
「で、いよいよ劇薬すりかえの一幕だ。林田はみずから昇汞を包み入れて出かけた。この薬は無論自分でもつていたものだろう。ちようど僕がうちに毒薬劇薬をもつているように、こういう職業の者には決して不思議でない所有品だ。林田はそれをもつてブラリと出かけた。何処へ出かけたか。云うまでもなく西郷薬局の附近だよ。彼はもしチャンスがあつたら何とかしようと思つていたのだ。これは度々くどく云うけれど大切な所だよ。彼の犯罪は何もあの日に限つたことじやないのだ。ここに彼の強味がある。彼はそうしておそらく秋川邸か薬局の附近に目立たぬように見張りをしていたのだ。
「するとここに彼の予算に入れてないことがおこつた。それは女中が薬局に入ると、彼は自分以外に妙な男がやはり女中を尾行しているということに気がついたのだね。云うまでもなくこれは早川辰吉という青年さ。辰吉と女中すなわち佐田やすは二人で公園のような所へ行つてひそひそと語り合つていたがまもなく去つた。彼はここでチャンスが来た、と感じた。林田はそこですぐ佐田やすを捕えたのだよ。

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