九時すぎだつた。いや正しく云えば、目をさましたのではない。目をさまさせられたのだ。
「おい小川、起きないかい。おい……」
ぼんやりと目をあけて見ると、意外にも私のねどこの側に藤枝がすわつているではないか。
「お目ざめかね。ちよつといそぎの用がおこつたので、女中さんに云つて、かまわずねどこに押し入つて来たんだよ」
「ああ君か。……どうしたんだい」
「オイ、とうとう秋川家に大事件がおこつたよ」
わたしは、いきなり夜具をはねのけてとこの上に坐つた。
「何? どうしたんだ」
「秋川ひろ子のおつかさん、秋川徳子が昨夜毒殺されたんだよ」
7
「毒殺? あのひろ子のおつかさんが?」
「うん、はつきり毒殺とは云い切れないかも知れないが、とにかく、秋川徳子が毒薬をのんでその結果、けさ死んだことはたしかなんだ。しかし自殺とみるべき所がないので、当局は殺人事件とみている」
「で、ほかの者は?」
「主人もその外の人もどうもないそうだ」
「君にどうしてそれが判つたんだい」
私は、もう起き上つて着物をきかえながらきいた。
「けさ、早く、ひろ子嬢から電話があつてね、母が昨夜から大変に苦しみはじ
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