人はちよつとまえに出かけたということ、電話は書斎の方につなぎつぱなしになつているが一向ベルがならなかつた、というようなことを語つた。
 藤枝はこれをきくと、すぐ林田の家を出たが、あわてて流して来た円タクをよびとめて秋川邸へといそがせた。
「奴、受話器をはずしつぱなしにして出やがつたな」
 彼は車中でたつた一言こう言つた切り、何も云わない。
 秋川邸につくとすぐ笹田執事が出て来た。
「林田君が来たでしよう」
「はい、ちよつと前に見えました」
「どこにいます」
「お二階のさだ子様のお部屋に……」
「何、二階のさだ子さんの部屋?」
 彼はこういうと、紐をほどきにかかつていた靴をぬごうともせず、そのまま中にとび上るといきなり私の腕をつかみながら驚く笹田執事をつきのけてまつしぐらに階段をかけ上つた。
 さだ子の部屋の前まで行くと、藤枝はノックもしないでドアのハンドルに手をかけて開けようとしたが、鍵がかかつているのか、ビクともしない。
 瞬間、藤枝の顔にサット不安の色が漲《みなぎ》つた。その途端中からさだ子とおぼしき叫び声がきこえて来た。
「あれえ、誰か、誰か来て」
 つづいて部屋の中で取組合でも
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