を、秋川ひろ子という美しい女性の印象に帰していた。事実、彼女の姿が、どうしても私の目から去らないのだ。同時に、私はいろいろな想像をしてみた。
もしこのまま何事も起らなかつたらどうだろう。それはひろ子にとつては幸福かも知れない。秋川一家にとつても勿論幸いであろう。けれど、私は、たつた一度彼女に会つたきり、このまま永久に相会《「相会」に「あわ」》ぬことになる。それは私としてはまことに淋しいのだ。
彼女がまた私にあうようになる為には、何事かが秋川家に起らなければならぬ。
こう考えてきたとき、私は自分の利己心をかえりみて、我が身に実は恥じたのである。
そうだ、何事か起つて、それが大した事件ではなく、ちよつとした事であつてくれればいい、ひろ子もその父も無事な程度に何か起つてくれればいい。そうすれば、ひろ子にとつても私にとつても都合がいいんだ。
こんなくだらぬ事を考え、同時にまた、事の推移をいろいろに想像した。
秋川駿三が何者かにおびやかされている事は間違いない。しかし、その相手は何者だろう。何故、彼はすぐに警察に訴えないのだろう。去年から今まで脅かされつづけて、いつたい彼は何をしてい
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