思えないこともない。僕の処に出した手紙は無論、自分で出したんだろうね」
「それははつきりきいて来た。無論自分で出したと云つている。それを書くのも全く秘密にしたと云うのだ。なんでも、上書を書いている所へ妹のさだ子がはいつて来たが、それにすら見せぬつもりで吸取紙で上からかくしたと云つているよ」
「妹が来た? へえ、それにも見せなかつたんだね。そうか。して見るとどうして知れたかな」
彼はこう云つて煙を吐き出しながらじつと考えこんだ。
「小川、君はおぼえているかい。さつき僕がさだ子という人もお母さんに云わなかつたか、ときいた時、彼女の表情がちよつとかわつた事を。ともかくこの秋川という家には何かふしぎな秘密があるね……さて、今日はもうお客もないらしいから、これで引き上げようじやないか」
私はまだたくさん彼にききたい事があつたのだが、彼がそういうのでやむなく立ち上つた。
銀座のある角で、私は彼と袂を別つたのであつた。
6
その夜、私はどうしても落ち着けなかつた。
床につくと、いつもは十分もたたぬうちに眠つてしまう私も、この夜はなかなかねつかれなかつた。
無論私はその原因
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