なお、秋川家の殺人事件に関しては、さすがにはつきりしたことは記していない。自分が犯人だ、と口では云つたものの、全然でたらめを書くことは出来なかつたと見え、遺書には自分が犯人だとは書いてなかつた。ただ何者とも知れぬ男から時々電話がかかり、その男も秋川家を呪つているときいて一緒にやる気だつた、しかしその男に一目も会つたことはないと記してあつた。
これは、彼女が死んでから、すなわち五月二日の夕方に判つたことであるが、警部はそれまでずつと病院にいたわけではないのだ。
警部は藤枝が千代子に自分の確信を述べて彼女が一応それを肯定すると、ただちに警察に引かえして、伊達正男を取り調べた。
警部は、伊達正男に改めて、里村千代子の出現を語り、合わせて藤枝の調査して来た事実を物語つたのである。
「僕も昨日それをはじめて知つたのです。恐ろしい過去です。僕の過去にそんな恐ろしい事実があろうとは全く思いがけませんでした。あの親切なおじ[#「おじ」に傍点]さんがそういうお方とは……もう叔母さんて方は駄目なのですか。一目会いたいような気がします……」
伊達の顔はいいようのない複雑な表情でいろどられていた。
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