が」
10[#「10」は縦中横]
里村千代子は、藤枝がしやべつている間、身体をもがいて苦しがつていたが、さつき、秋川駿三を悪魔! とののしつたきり一語も発し得ず、だんだんようすが悪くなつて行つた。
蘆田博士は、眉をよせながら見ていたが小声で、
「どうも思わしくない。いけないかも知れん」
と警部にささやいていたが、はたしてその夕方息を引取つてしまつた。彼女の帯の間に遺書らしいものがあつたが、それには藤枝が述べたと全く同じ事情が書いてあつた。
ただこれによつて新しく判つたのは彼女が最近、赤坂の今井病院という婦人科の看護婦としてつとめていたこと、さと子という十七才になる娘が丸ビルのオフィスにタイピストとしてつとめているが、その娘は何も知らずに母の命令で脅迫状をしたためたこと、決して彼女には罪のないこと、それから伊達正男には一回もあつたこともなく、手紙を出したこともないということを記されてあつた。
「なるほど、看護婦をしているのか。それで判つた。犯人が千代子とどこで電話で連絡していたのかということが今までよく判らなかつたのだよ。貧乏人が電話をもつているわけがないからな」
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