の顔面の恐怖ね。これを何と解釈するかね。林田君」
 林田は暫く死体の位置と鏡と見比べていたが、
「君も考えただろうが、駿三は最後の瞬間に犯人の姿を見た――いやもつと正確に云えば、鏡中にうつつた犯人の姿を見たのじやないかな」
「そうだ。僕もまさしくそうだと思う。それにしても、駿三は余程恐ろしい相手を見たに相違ない」
「して見ると彼は自分をつけ狙つている相手の顔を知つていたのかしら」
「彼が死の直前に僕に云つた言葉を真実とすれば、彼ははつきりそれを知らんということだつたよ」
「いずれにせよ、駿三には犯人の顔が判つていたのだ。この表情は、単に今殺されかかつているという表情じやない。もつともつと深刻なものだ」
「そうだ。例えば、平生自分のよく知つている人間が意外にも犯人だつたというような場合」
 林田は、暫くまた死体の位置に注意していたが突然藤枝に云つた。
「今君の話によると、駿三は、重大な書類を探しに……」
「うん、僕もすぐそれを思い出して探したがもうないんだ」
「何、ない?」
 林田は驚いて藤枝の顔を見返したがやがて、
「やつぱりこの鏡の後にでもあつたのかね。死体の位置から考えると駿三は鏡
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