て切つてまつたく忘れていたことをすぐ考えはじめていたらしい。
「そうだ。そうだつたよ」
「もし駿三氏がわれわれに嘘を言つたのでないとしたら――しかしてこの場合嘘を言つたとは考えられないが、そうすればその書類はこの部屋にかくしてあつた[#「かくしてあつた」に傍点]か又はまだかくされてある[#「かくされてある」に傍点]筈なんだ」
「うん、そういうわけになる」
「僕は死体を今調べて見たが、死体にはそんなものは一つもない。して見ると書類は、駿三氏がまだ出さないかも知れない。もしこの室にないとすれば犯人の手にもう入つているかも知れない。……ところで、そのかくしてある場所というのは、一体どこだろう」

      12[#「12」は縦中横]

 藤枝はこの時、全身の精力を一時に脳に集中したように見えた。彼は黙つて室内を見廻した。この室の中で一番目につくものは何と云つても立派なピヤノである。彼はしばらくピヤノの方を見ていたが、やがて目をそらすと、はめこみの鏡をじつとのぞきこんだ。
 しばらくすると、彼は、駿三が仆れている両足の間に自分の足をもつて行つて、鏡の方を向いて立つたが、藤枝が立つと、彼の頭が
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