、ちようど鏡の上のふちの所に来る。彼がかなりせいの高い男であることはこの物語の冒頭に記したはずである。彼は、二、三分そうやつて鏡と向きあいに立つていたが、やがて左右の両縁《りようふち》をしきりに指さきでいじつていたが不意に、
「しめた。これだ」
 と小児《こども》がなくしたおもちや[#「おもちや」に傍点]を発見した時のような喜ばしそうな声を出した。
 見ると、驚くべし、向つて右の鏡の縁《ふち》がどういう仕かけか、一寸ほどあいて、藤枝は今や左の手をかけてあけようとしているではないか。
 私と木沢氏は驚いて思わずはしりよつた。藤枝の左手《ゆんで》がさつと左に開くと、はめこみになつた鏡はそのまま左の縁を中心にしてあたかも箱の蓋のように前にとび出して来た。
「うん、そん中だな。書類があるのは!」
 私が叫んだのと、
「おや、何もないぞ」
 と藤枝が叫んだのと殆ど同時だつた。
 藤枝は、鏡のうしろをのぞきながら、右手を入れてかき廻していたが、やがてバタンとまた鏡をもとにかえした。
「フン、何もない。しかし何か書類らしいものが入れてあつたことは確かだ。して見ると……」
 彼は次の言葉を発せず、その
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