今回の事件に限つてこの名探偵もひどくあわてている。そのあわて方が電話を通してこちらにもよく判る位だ。
「小川さん、もつと大きな声で! 駿三が殺された? 誰に? どこで?」
藤枝といい林田といい、どうも今日はあんまりあわてすぎるじやないか。
藤枝は藤枝でいきなり林田に来てもらおうというし、林田はおちついていると思いの外、誰に殺された[#「誰に殺された」に傍点]、なんて愚にもつかぬ質問をしている。誰に殺された? そんなことが判つてる位なら今までの犯人だつてもうちやんと判つてる筈じやないか。ひろ子がいじめられていたのは、それが判らないからじやないか。
しかしこれもあとで思い出したことだ。
「秋川の家でです。今僕も藤枝も来ています」
「そうですか。すぐ行きます」
林田はあわてて電話を切つた。
私がいそいでピヤノの部屋に戻ると、
「どうした。先生、いたかい」
と藤枝がせわしそうにきく。
「うんいたよ。いたよ。すぐ来るつて云つてた」
「何、すぐ来るつて?」
何と云うことだ、藤枝はよほどどうかしている。自分で来てくれとたのんでおきながら、私の今の答をきいて全く驚いた顔付をした。
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