うすを知らない。
藤枝は階段をかけおりて、
「秋川さん、秋川さん」
とどなつている。
われわれがあとからついて降りると、笹田執事が驚いて部屋からとび出して来た。
「君、御主人がおりて来られなかつたかね」
藤枝がせわしく問う。
「いや、私はただ今先生が主人をよんでいらつしやるので出てまいりましたので」
藤枝の顔色にこの時、云いようのない妙な表情が浮んだが、
「さ、みんなで、いそいで探すんだ。僕はこの応接間を見るから」
藤枝と私とはいそいで戸をあけたけれども中には誰もいない。
戸をしめて再び外に出た時、さだ子がピヤノの部屋の戸をあけるのが見えたが、次の瞬間に、
「あれえ」
という悲鳴がきこえると同時に彼女は戸口に仆れてしまつた。
そばにいた木沢氏がとんで行つて抱きおこしている。
と見るより、藤枝は脱兎の如くひろ子と私をつきのけてピヤノの部屋にとび込んだ。
つづいて私も飛鳥のようにピヤノの部屋におどりこんだが、この時ここで遭遇した有様ほど、物凄い光景に私は今まで出会つたことはなかつた。
戸をあけた瞬間、私の目を射たのは仰向けに仆れている駿三の身体であつた。
彼の両足
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