来るはずはない。彼女は理想家であつて実際家ではない。彼女のクリミノロギーは失礼だけれどもたかだかグリーン・マーダー・ケースを出ないんだ。そのひろ子には、他人に知られずに昇汞を手に入れるというようなごく実際的なまねは断じて出来ないと思う。第三、昨日の事件のヴェロナールもまた然り。ひろ子がどうして初江にヴェロナールをのませたか。ヴェロナールの方が昇汞よりは彼女の手に入る可能性があつた筈だが、初江にのませる手段がわからない。しかして最後に、初江にかかつたあの不思議な電話。あれは明らかに外からかかつたものだが、もしひろ子がその電話の主の共犯者であるとすれば、ひろ子はいつその女に、ああも都合よく時間をはかつて電話をかけるように合図をすることが出来たか。この点がはつきり説明が出来ない限り、僕は警部のテオリーに賛同するわけにはいかんな」
なかば灰になつたシガレットをポンとすてると藤枝は、かたわらにおいてあつた旅行案内をとりあげた。
「ところで、僕は今云つた通りこれからすぐ旅行しなくちやならん。目的は例によつて今は云えない。しかし、今月末には必ず帰るからよろしくたのむよ」
「どうも折角なおつてくれた
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