に向つてどなるように叫んだ。
 すると、どうだ、その不思議な[#「不思議な」は底本では「不思議が」]声がこういうではないか。
「ほほほほ、藤枝さん、余計なことに手を出すものじやありませんよ。秋川家のことには手をお出しなさいますな!」

      3

「何?」
 私は思わず、電話口で大声をあげた。
「秋川家のことに手を出すものじやないというんですよ。どんな不幸が来ても、来るには来るだけの理窟があるんだから、藤枝さん、むやみに手を出すととんだ事になりますよ。ほほほほほ」
「何だ。オイ、君はいつたい誰だ」
 声では男女がはつきりしないが、言葉の云いまわしはたしかに女とみえる。この不思議な声に対して、私はとびかかるように、またどなり返した。
「おい君、どうしたんだい」
 左の肩をちよいとつかれて、ふりかえると藤枝真太郎が、早くもこの電話の応答を怪しいとみたか私の側につつ立つて、さぐるような目つきをして私をにらんでいる。
「妙な声がきこえて来るんだよ、それが秋……」
「シーッ!」
 彼はこわい目をして私をにらみながら、ちらとひろ子の方を見た。ここでへんな事をいい出して、この上この美しい女性に
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