心配をかけるなという意味であろう。
 私は、黙つて、受話器を藤枝に手渡して後にさがつた。
 おそろしい手紙の事で、夢中になつているらしいひろ子には、幸い私のへんな様子は気付かれなかつたらしい。
 私は手紙を手にとつたまま、椅子の所にぼんやり立つている彼女に向つて、
「今、すぐ車が来ますから、まあおかけになつていらつしつて下さい」
 と云いながら、たえず藤枝の方に注意していた。
 しかし、本人の藤枝が電話口に出た時は、もうあの怪しい相手は話を切つてしまつたとみえて、彼は少しも妙な会話をはじめなかつた。やがて彼はおちついた声で、
「え、日の出タクシーですか。こちらは藤枝です。一台すぐよこして下さい」
 と云いながら電話を切つてしまつた。
「今すぐ来ます。この裏ですから二、三分で来るでしよう。それまでお待ち下さい」
「どうもいろいろごめいわくをかけまして、ほんとうに申し訳ございません」
「どう致しまして……それでと……すぐ車が来ますがそれまでに一言うけたまわりたいのですが、最近の御父様のようすは、つまりさつきおつしやつた状態がだんだん進んだ、というのでしような。手紙がまたさかんに来る、という
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