ひろ子はこう云つたものの、やはり気になると見えて、すぐには去りかねているようすである。
「失礼ですが、私どうせひまですから、お宅までお送りしましようか」
 私は、二人の中どつちともつかずに云つた。
「大変でございますわ」
「いいえ、小川君はどうせ今ひまなのです。それに人間も確かですから、小川君に送つてもらいましよう、ねえ秋川さん、そうなさつたらいかがです?」
「でも余り……はじめて伺つて勝手でございますから」
「何、いいですよ。小川君に頼みましよう」
 彼はこう云つて私を見た。
「ねえ君、君が行つてくれれば安心なんだが、その辺の流しの車を捕まえてうつかりのるのはまあけんのん[#「けんのん」に傍点]だ、君、すまないが日の出タクシーへ一台よこすように云つてくれないか」
「うん、よし」
 私はすぐに、電話器の所に行つて指でナンバーを廻転しはじめた。
 ジージーと明らかに相手をよんでいる音がきこえるが、中中相手は出て来ない。
 すると、どう混線したか、妙な声が途中でしきりにきこえて来る。男の声か女の声かはつきり判らない。
「かけてるんですよ。困りますね。切つて下さい」
 私はじれ切つてその声
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