かつた。
 やはり弱い女性である。しつかりしているように見えても秋川ひろ子は矢張り女である。
 私はそう感じたと同時に、この三角形の印のある手紙が、最近どんな恐怖を秋川父子《おやこ》に投げ与えているか、という事もはつきりと感じられた。
 おそらく、ひろ子が、これから語ろうとした事実には余程深刻なものがあるらしい。
 藤枝が頻りとききたがつていたのも無理はない。
 約二、三分、藤枝はいろいろとひろ子を説得したけれども彼女はもう腰がおちつかず、
「でも私……何だか恐ろしくて……」
 と云つて立ち上りかけていた。
 こういう有様では、とうてい今ここに落ち着かせる事は出来ぬと悟つたか、藤枝は、とうとうこう云つた。
「私は決してそう御心配になる事はいるまいと、思うのですけれど……まだすつかりお話をうけたまわり切れぬうちに、そう断言するのも軽率[#「軽率」は底本では「軽卒」]ですから、それほど心配になるならすぐにお帰りになつたらいいと思います。……しかし、まだ、明るいですが、一人でおかえしするのは、ちよつと心配ですから……」
 彼はこう云つて私のほうを見た。
「いえ、私一人で結構でございますの」

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