気でもちがつているのでなければ云えた話ではございません。父にきけばいずれ伊達さんのお父さんと同郷だつたとか、世話になつたとか申すに違いございませんが、それならば、父は何故はつきりそれを云わぬのでございましよう――仇です。きつと敵です。伊達さんの父は、私の父のきつと仇だつたにちがいありません」
 この一言をひろ子は、はつきりと云い切つたが、この言葉をきいた時、藤枝の右手からエーアシップが床にポットリとおちたのを私は見のがさなかつた。彼はあわててシガレットを取り上げたが、こんなに彼が驚いたところを、私は今まで見たことはない。このひろ子の言葉が如何に藤枝をおどろかしたか。何故、こんなに藤枝がおどろいたのだろう。
「仇でございますとも。あの人の父はきつと私の父を恨みながら死んだのにちがいありませぬ。それでなければ何故父がああいう風にずつと恐怖しつづけているのでしよう。伊達さんがおそらくは父の過去の秘密をかぎつけて脅迫状を父に送つていたに相違ありませぬ。父は誰か終生の敵をもつているのでございます」
「では、その終生のかたきの子を育てているのは?」
 藤枝の声はかすかに慄えている。彼は何か非常な興
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