南側にある)さだ子の横顔が見えたが、すぐその傍《かたわら》にいる伊達正男の頭が目についた。

      5

「ひろ子さん、伊達君がまた帰つて来ましたよ」
「おや、ほんとですわね」
 私に注意されてひろ子は、二階の窓を見上げるとこう云つたが、ふと自分の腕時計に目をやつた。
「もう六時四十分ですわね。御はんの支度ができる時分なのに、どうしたのでしよう」
「いや、私は失礼します」
「まあ、そんな事おつしやらないで。用意がしてある筈でございますから……それに初江ももうお風呂から出た時分と思いますけれど。私ちよつと見てまいりますわ」
 彼女は私に会釈をしながら、そのままガラス戸の入口から家の中にはいつて行つた。
「林田さん、庭に出て見ませんか。きれいですよ」
 たつた一人になると、現金な私は早速二階の窓に向つて声をかけた。林田の姿は見えないけれども、無論上にいると思つたからだ。
 果して、声に応じて林田は窓の所に姿をあらわした。そして窓から顔を出してあたりを見廻した。
「成程、こりやいい景色だ」
 と云つたが思いついたように、
「ひろ子さんは?」
「今ご用で家の中へ行かれましたよ」
 私が答
前へ 次へ
全566ページ中322ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング