はそこの入口から庭下駄をつつかけて庭に出た。
 成程、花壇はその手入れをする令嬢にふさわしく美しかつた。
「小川さん、きれいでしよう。でもね、此の花の根には毒があるんだそうです。ほらいつか藤枝先生がおつしやつたでしよう。美しい女におそろしい犯罪人があるつて、あれと全く同じですわね。ほほほほほ」
 一体彼女は何を考え何を思いついたのだろう。
 つづいて彼女はしきりに犯罪に関する話をしはじめた。花のようなひろ子が美しい花壇を前にして春たけなわ[#「たけなわ」に傍点]の庭園の夕ぐれに、犯罪物語をする、ということは全くこの時の情景にふさわしくない感じだつた。それだけに私には彼女の心もちがわからず、それだけにその物語は、一層物凄くひびいたのである。
 もし彼女がここで、自分の恋の物語をはじめたとしたら、私は時のたつのを知らずこの庭に立ちつくした事だろう。さつき音楽の話では充分にお相手をした私であるけれども、犯罪物語のお相手はこの場合つとまりかねる気もちになつた。
 私は、なんとかして話を転じようとして、さだ子の部屋の窓を下から見上げると、(さだ子の居間はひろ子のそれと反対の側、すなわち庭に面した
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