した。十七日の午後、この令嬢と初対面をして、今日ようやくゆつくり二人で語れるのだ。私は内心の喜びをかくすことが出来なかつたのである。
さだ子が林田を信頼すればする程、ひろ子は藤枝を信じている。その藤枝の代りに来ている私である。ひろ子がひどく打ちとけて語り始めてくれたのは、実は藤枝に対する好意かも知れないけれど、私にとつて決してめいわくなわけではなかつた。
いやな事件を全く離れてわれわれは絵画のことや文学のことや音楽の話をはじめた。藤枝は、二十日の夜、レコードを見て『我が音楽趣味に感謝す!』と独り言を云つたが、今や私もその言葉を心の中で唱えないわけにはいかない。この芸術趣味のおかげで私は約二十分間ほど、ひろ子とたつた二人で語り合つたのであつた。
「ねえ、小川さん、庭に出てごらんになりませんか。ゆつくり私の花壇をまだ見ていただかないんですもの」
「結構ですね。拝見したいですね」
ひろ子が案内をしてくれたので、私は彼女の後から庭に下りたつた。ひろ子がわざわざ玄関から私の靴を例のピヤノの部屋の隣のガラス戸口までもつて行つてくれようとするので、私は恐縮してあわてて自分で靴をはこんだ。ひろ子
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