として、ひよいと裏返して見たが、おもわず、アッと叫ぶ所であつた。
第一の悲劇
1
見よ。そこには、はつきりと赤い三角形の印《しるし》が押してあるではないか?
私はそれを見た刹那[#「刹那」は底本では「殺那」]、すぐにこれを、ひろ子嬢に手渡していいかどうか、ちよつと考えざるを得なかつた、ひろ子嬢は、しかしその間にもうその手紙の恐ろしい三角形を認めてしまつたらしい。
「あら! ここにもこんな物が? あの私にですの?」
さすがはやはり女だ。今までしつかりとしていた彼女も、この手紙の印を見ては全く面喰つたらしい。膝の上から危くすべり落ちそうなハンドバッグをやつと握りしめた。
けれど、一番敏活に行動をとつたのは藤枝だつた。彼は私の手に何があるかを見るや素早く立ち上つてドアをあけた。
次の瞬間、ドアの外からこんな会話がきこえて来た。
「オイ、給仕、今の手紙はどうしてきたんだ」
「使いの方が持つて来たんです。メッセンジヤーボーイのようでした」
「もう帰つたかい?」
「あの手紙をおくと直ぐに帰りました。受取を書こうとしているのに、いらないと云つて!」
「そうか」
藤枝
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