すが、それが、不幸にも、夫婦とも短い間に死んでしまつて、あの子は、可哀相に孤児になつてしまつたんです。それで私は恩人に対するせめてもの恩返しとして、あれを立派な男に育ててやつたのです。あるいはもうおききかも知れませんが、私はあの男がさだ子と結婚したら相当の財産をわけてやる気でいます。ただ妻は反対しました。しかしこれも恩人に対する私の恩返しのつもりなのです。今まではつきり申さなかつたので変にお考えのようですが実はそう云うわけなのですから、この点をどうか藤枝先生に充分お伝え願いたいと思います」
「ほほう、そういうわけだつたのですか。して伊達君はそのわけを充分知つているのでしようねえ」
 何故か、この時、駿三の顔にちよつと暗い影がさした。
「さあ知つておりますかも知れません。しかし、恩返しにあれを育てたなどというのは、またこつちから恩を売るようなものですから、私自身からは一度も申したことはありません」

      10[#「10」は縦中横]

 駿三と私とはなお暫くいろいろな話をしたが、別にとり立てていうべき程のこともなく、午後私は秋川邸を辞して再び藤枝を訪問した。
 そうして駿三が伝えて
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