をひそめて申しました。
『そうよ、私いまはつきりおぼえていないけれど、こんな意味の事が書いてあつたの。
[#ここから1字下げ]
お前の父は今大変に危険な位置にいる。お前の一家も早晩大変な不幸にあうだろう。この手紙を早く父に見せてわけをきいてみよ』
[#ここで字下げ終わり]
『さださん、あなたその手紙をどうして?』
『私、その手紙のいうとおりにしたのよ。すぐお父様のところにもつて行つたの。そうしたら、お父様は、それをひつたくるように取つて読むと、自分のふところに入れたまま、お前、この事を決して誰にも云つちやいかん。決して心配する事はないからつて、こわい顔をなさつたのよ』
4
さだ子はその手紙を父に渡して戻つて来たが、父のようすがどうも心配なので、私同様おきて来た、とこう申すのです。その夜は、しかし別に何事もおこりませんでした」
美しい依頼人はここまで語つて、ちよつと一息ついた。
「よく判りました。ちよつとおたずねしますが、妹さんの所に来た手紙はやはり郵便で送つてこられたのでしようね」
「そう申しておりました」
「その妹さんの所に来た手紙はペンで書いてあつたでしようか
前へ
次へ
全566ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング