。藤枝は秋川家で昼めしも食べろとは命令していない。今頃訪問するのはかなり気の利かぬ話だけれど、ともかく一応は行つて見なければならないので、私はまつすぐに秋川家の玄関に来た。
 笹田執事の案内で私は早速応接間に通された。丁度そこに林田がさだ子と何か話している所であつたがさだ子の顔は昨日よりいたましく見えた。
「ああ小川さん、今藤枝君の所へ寄つて来ました。御病気のようで、お気の毒です」
「いや、彼に仆れられて私の責任甚だ重大という事になつて困つていますよ」
 さだ子は私が部屋にはいると、まもなくドアから去つたが、ひろ子をよびにでも行つたのであろう。
「これは藤枝君と私と同じ考えなんですがね、用心の上にも用心するに越した事はありませんから、当分この家に毎日来て見ようと思うのですよ。あなたもそうなさるおつもりでしようが」
「ええ、今藤枝に云いつかつたんです。ただ令嬢のお相手をしていればいいんだそうです。悪い役目じやないが、しかし何だか重い責任を負わされたようでね」
「主人は、まだ床についたままで、今日も木沢氏が来ていますが、まあそのうちよくなるでしようから、そしたらゆつくり会つて見ましよう」

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