て来る時分だと思いながら、私は朝食を早くすましていた。殊に昨日秋川家を辞する時、主人に拒まれぬ限り、また来ると云つた所から考えてもきつと私をさそうに違いないので、私はいつでも出かけられる用意をしていた。
十時頃になつても、しかし電話はかかつて来なかつた。さてはさすがの彼も、この大事件にぶつかつて頭を悩ましたため、とうとう元の大寝坊に戻り、正午《ひる》のサイレンと共に今日はおきるのかな、と心ひそかに焦れながら待つていると、十一時近くになつて電話のベルがなりはじめた。
「そら、こそ」
とばかり私はいそいで受話器を手に取ると、意外にも女の声がきこえる。
「小川さんでいらつしやいますか。私藤枝の母でございますが……」
藤枝が母と二人暮しでいることは、すでに諸君が知つておらるるところである。
電話は藤枝の家からかかつているのだが、話しているのは彼の母である。私は思わずドキリとした。
が、母の話はそう大して驚くほどのことではなかつた。今朝から藤枝が発熱していて起きられない。しかし、彼が私に至急何か重大な用件を話したいというのである。そこで甚だ恐縮だが、自宅に来て会つてくれということであつ
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