ひろ子の部屋にいたが、別にここに記さねばならぬような話はなかつた。
9
暫くすると木沢氏は立ち上つた。
「では、また御主人が目をさますといけませんから私はあちらに行つて来ます。ひろ子さんと代りましよう」
木沢氏が出て行くと間もなくひろ子が戻つて来た。
「如何でした。お父様は?」
「は、もうちよつと前目をさましましたが大分おちついております。しかし」
と云つてちよつと微笑しながら、
「警察や探偵の方々は頼りにならないつてこぼしておりましたわ」
「いや全く恐縮。一言もありませんよ。すつかり信用をおとしてしまいました」
「でも先生は、まだいいんでございますわ。林田先生には、父が自分で頼んで安心していたのにこんな事になつてしまつたと云つてぶつぶついつていますの」
「さて、私たちもそろそろ失礼しますかね」
「あら、まだいいじやございませんの」
藤枝は、しかし七本目のM・C・Cを灰皿にすてると立ち上つた。
「成程、あなたは、文学、美術以外に犯罪小説に興味をおもちのようですね」
といいながら本棚の前に行つたが、
「ここに、ジェス・テニスンの『殺人及びその動機』という本があり
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