けれど、これは矢張り私の空想ではございませんでした。十月のはじめ、外出先から私が帰つて来て門の郵便箱を開けて見ますと、そこにまた三角形の印《しるし》のついた手紙が来ています。今日こそは、はつきり確かめねばと私は決心しまして、其の儘、それを父の書斎において、父の帰るのを待つておりました。
珍しく父は、その夕方わりに早く帰つてまいり、着物をきかえながら、夕食はうちでたべるからと云うので、母が台所に行つて女中達にいろいろ食べ物のことについて申している間に、突然父のようすが変つてしまつたのでございます。疑いもなく、父は書斎にはいつてあの手紙を見たに相違ございませぬ。折角母が丹精して作つた夕食にも殆ど手をつけず、食卓に向つても、なんだかしきりに考えているようでございました。
食卓を離れた父は、ますますいらいらしているようでございましたが、書斎に入つたり出たりして落ち着きませぬ。母も何事かと、また心配しているようでございましたが、どうもはつきりしたことは判らないようなのでございます。
夜になりましたが、私はとうてい眠られませぬ。十二時すぎにそつと起きて寝室から出てまいりますと、廊下でばつ
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