父が青い顔をして私共の部屋にまいり、
『このごろは、世の中が物騒だから下男をふやそうかと思う。お前たちも気をつけて、夜ねる時には一通りの戸締りを見てから、ちやんと鍵をかけてねろ』
と申して、また自分の部屋に戻つたそうでございますが、その夜、母がひそかに気をつけておりますと、父は夜中、ピストルを手にして部屋の中をうろうろしていたらしいと申すことでございます。
「ちよつと、秋川さん、その頃お宅には下男は何人いたんですか」
「下男は一人しかおりませんでしたが、老年の執事が一人おりました。今でもまだおります」
「失礼しました。どうか話をおつづけ下すつて!」
「私はそれをきいて、その翌日父が勤めに出ますと、そつと書斎にいつて見ました。この前のとき、何だかあの赤い三角形の手紙と、父の恐怖と関係があるような気がしましたものですから。それに西洋の探偵小説なんかによくあるものですから!
父の部屋にはいつて見ますと、私はまず第一に状差しを見ました。けれど何も見当りません。紙くず籠を見てもやはりないのです。ではやつぱり私の考えは小説の空想だつたのか、とその時はそう思つてしまいました。
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