見てずんずん行くとやはり左側に立派なドアがある。ここがひろ子の部屋と見える。
 ひろ子の案内でわれわれ二人は美しい令嬢の部屋に通された。
「いや、素晴らしい結構なお部屋ですね」
 藤枝がお世辞でなく思わずそういつた位、美人に似つかわしい美しい部屋であつた。

      7

「では、ちよつとここでお待ち遊ばして……」
 ひろ子はこういうと部屋を出たが、木沢医師を呼びに行つたのだろう。
 藤枝と私は、椅子の傍らに立つた儘、部屋の中を見まわした。
 壁には泰西名画の写真が二つかけられ、部屋の一方に寄せられてあるテーブルの上には、美しいカーネーションがその姿に相応しいかおりを室内に送つている。一方の壁によせて大きな書棚がおかれてあつた。
「マドモアゼル(令嬢)の愛読書があるぜ」
 藤枝が指すので、ガラス越に本棚をのぞくと一番上の列に第一に目についたのは Richard《リヒヤルド》 Muther《ムーター》 の「絵画史」とそれに並ぶ L《エル》. Nohl《ノール》 それから Paul《パウル》[#「Paul」は底本では「Panl」] Bekker《ベッカー》 の有名な Beethoven
前へ 次へ
全566ページ中269ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング